電子サンプル

愛奴、淫楽

  一、

 ポタリ。
 ベッドの上に久志《ひさし》の額から流れた汗が滴った。
 床にも滴るものがある。
 久志の先走りの蜜だ。
「どうしたんですか。相良《さがら》先輩。こんなにお漏らしして」
 床に滴った露を確認し、笑い含みの声で生田一紀《いくたかずのり》は久志の耳朶を甘噛みした。
「ふっ」
 それだけで全身に快感が走り、久志は鼻にかかった甘い吐息を漏らす。
 濃紺のサマースーツにネクタイをきっちりと結んだ姿の久志だが、下半身は裸で、両手は背中でガムテープによって拘束されていた。
 外気温は二十六度。だが湿度が異様に高い真夏の夜。
 エアコンがフルに動いている室内にもかかわらず、久志の額から汗が引くことはない。伸びて額に落ちかかる前髪が白く美しい肌に張り付いている。
 剥き出しにされた下半身も汗と屹立の先端から滲み出る露で濡れ、陰毛が怪しく光っていた。
「俺、何もしてませんよ。ただ、こうしてあんたを縛って、見ているだけなのに……」
「だ、誰のせいだ……。お前が……」
 ベッドに上体を預けるようにして俯せていた久志は、起き上がり背後を振り返ろうとした。
「誰が起き上がっていいって言いましたか?」
 伸び上がった背中を強く押され、久志の上体はまたベッドに密着する。
「んっ……」
 強く押されたため、胸に圧迫痛が軽く走り、久志は綺麗な顔を歪めた。
 子供の頃からかわいいと女の子に間違えられ、成人し社会人となった今も美人だと言われる女顔だ。加えて誰にでも優しく若手の中でも優秀な久志は会社中の女性の熱い眼差しを日々注がれている。
「それに、お前呼ばわりはないでしょう? 僕はちゃんと相良先輩って呼んでいるのに」
 今しがた『あんた』と呼んだことなどなかったように一紀は言い、口角の端を微かに持ち上げた。
 それだけで普段はストイックで真面目な雰囲気が、一変する。真面目な好青年から、サディスティックな独裁者のそれになる。
 久志同様優秀で、やはり会社の女性達からの人気を集めている男だ。
 淡いグレーのサマースーツを一部の隙もなく着こなしている。額に落ちる長い前髪すら、普通の男がやったら清潔感がないと言われそうなのに、一紀だとそうはならない。かえってアクセントとなって、一紀の端正な顔を引き立てる。
 その久志と一紀が、シティーホテル並の内装と設備が整っているとはいえ、いわゆるラブホテルにいるなど誰も想像しないだろう。
「……っ。生田……。生田が、こんな物挿れるから……」
 久志の肛門には数時間前、会社にいる時から小さなコードレスローターが挿入されていた。さすがに会社にいる間はスイッチを入れられてはいなかったが、それでも少し動くたびに狭道の中を刺激する異物に、久志の下半身は疼き続けていたのだ。
 それが今は久志の中で振動し甘く蠢いていた。もちろんリモコンは一紀の手の中にある。
「でも、先輩」
 ベッドと密着していた久志の上体をずらすように一紀は腰を引く。そしてできた隙間に手を潜り込ませ、一紀は久志のスーツのボタンをゆっくりと外して行く。
「嫌だったら断ればいいのに、そうしなかったのは先輩ですよ」
「そ、それはっ……」
 ボタンを外されるだけなのに、微かに乳首の辺りに当たる一紀の指に久志はぴくりと反応してしまう。
「何? まさか俺が脅迫したからとでも?」
 一紀は昏い微笑みを浮かべて久志の顔を覗き込む。
 その笑みに、一人称が『僕』から『俺』にかわった事に、久志はぞくりと全身を粟立たせ、触れられてもいない先端から新たな蜜を零す。
「ねえ、先輩? 俺が脅迫したとでも?」
「……っ」
 久志は何も答えられず、ただぎゅっと唇を噛み締める。
 お前に脅迫されたんだと言い返したかったができない。
 一ヶ月前、久志は会社のロッカールームで自慰している場面を一紀に見られたうえ携帯で写真を撮られた。それをネタにその場で犯された。
 俺のおもちゃになれと命じられ、散々玩《もてあそ》ばれ、あまりの逸楽に一紀のおもちゃになるのを承諾してしまったのだ。
 脅迫されたとはいえ、一紀に喘がされ、感じて陥落したのは久志自身だ。
 だから脅迫されたと一紀に言い返せない。
 それに……。
 久志は気付いてしまった。自分の中の被虐性に。

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